本年度は、フェムト秒光カー効果分光装置の立ち上げを最初に行った。時間分解能や信号/ノイズ比に関して改良の余地はまだあるものの、本研究課題に関しては十分の性能を有する世界最高水準のものである(装置応答:約30-35フェムト秒、信号/ノイズ比:〜10^3)。立ち上げたフェムト秒光カー効果分光装置を使って、まず分子性液体の分子間振動ダイナミクスの測定を開始した。現時点で、15種類の分子性液体の測定を行った。今後も更に測定を行うことによりサンプルの数を30程度以上に増やし、分子性液体の分子間振動ダイナミクスの全体的な描像を明白にする予定である。また、この膨大なデータを元に、世界に先駆けて分子間振動ダイナミクスのデータベース的な論文を作成する予定である。 さらに本年度は、本研究課題の最大のターゲットとなる室温イオン液体のアニオンのXF_6-の質量効果についても研究を行うことができた。この実験で、構成イオンの原子量の効果は、質量よりもイオンの大きさによって生じるイオン間距離からくる分子間相互作用がイオン液体の粘度に影響を与えていることを明確にした。また、フェムト秒光カー効果分光装置により、分子間振動ダイナミクスの測定を行った。より詳細な解析と考察が必要なものの、大まかに原子量の効果が現れる振動数領域が明らかになった。振動数領域とイオン液体の分子運動には厳密な関係があるので、来年度これを詳細に明らかにしていくことを目標としている。既に分子科学研究所の石田干城博士とこの研究テーマについて共同研究を開始し、石田博士の得意とするコンピュータシミュレーションによる結果と本研究の実験結果を比較することを計画している。
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