研究概要 |
過去100万年にわたる地球の気候変動の解明を目的として,南極氷床深層コアの掘削とその解析が行われている。日本の研究グループは独自に掘削した氷床コア(ドームふじコア)で研究を行っている。氷床は数10万年の長い年月をかけて流動しており,氷床コアを構成する氷は,その流動の過程で塑性変形を受けた特殊な氷である。従って,実験室で作製された氷(実験室氷)とは異なる性質を有する可能性がある。そこで本研究では,X線回折法による測定によりこのような氷の構造の特徴の解明を目的としている。 氷床コア氷を粉末にして格子定数を測定した結果,氷の格子定数は実験室氷と比べて大きく,かつa軸,c軸とも深さの増加とともに格子定数は増大するという深さ依存性を示すことが報告された。ただし,この結果は試料を粉末した影響が考えられるため,本研究ではバルク(薄片)試料について格子定数の測定を行った。その結果,粉末の場合と同様に氷床コアの薄片試料の格子定数は,実験室氷と比べて大きくなっていることが確認された。しかし,深さ依存性に関しては,深さの増加とともにa軸については増加,c軸については減少するという粉末の場合とは異なる深さ依存性が観測された。 氷床の流動の過程では,個々の氷結晶は転位が導入されて塑性変形を受け,これは測定されたロッキングカーブの形状変化や幅の広がりとして観測される。そこで本研究では,X線回折法により氷床コアの氷結晶のロッキングカーブを測定し,その形状や幅から結晶組織とその転位密度について調べた。ドームふじコアの場合,これまで測定した2624mと3025mの試料では,ともに測定領域内に3ないし4個の亜結晶が存在することがわかった。また,ロッキングカーブの幅から求めた転位密度は,2624mの試料ではほぼ5x10^9m^<-2>,3025mの試料では5x10^7m<-2>〜1x10^7m<-2>となり,深い氷の方が転位密度が低いことがわかった。
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