過去の地球の気候変動の解明を目的として、深さ3000m以上にわたる南極氷床の深層掘削により得られた氷床コア(ドームふじコア)の解析研究が行われている。南極氷床は約100万年の長い年月をかけて形成されると同時に流動しており、氷床コアの氷はこのような変遷を経た特殊な氷である。従って実験室で作製された氷(実験室氷)とは異なる性質を有する可能性がある。本研究では、氷床コアの氷の構造の特徴の解明を目的としてX線回折法によりロッキングカーブと格子定数の測定を行った。 ロッキングカーブの測定は、深さ975mから3025mまでほぼ300m間隔で行った。全ての深さの試料において亜結晶粒が観測され、その間隔は概ね0.01°オーダーであった。ロッキングカーブの幅から転位密度を推定することができ、(10-12)反射の結果から推定すると、深さ975mから2000mまではで〜10^<10>m^<-2>で緩やかに減少した後、深さ2500mからは〜10^9m^<-2>となり、さらに3025mでは最も低い値で〜10^7m^<-2>となり、この間急激に減少した。これは、深い氷ほど長い年月を経ていることと、岩盤に近くほど地熱により温度が上昇し、アニールによる転位の消滅が活発であったためと考えられる。 薄片試料の格子定数は、粉末試料の場合と同様に実験室氷と比べて大きいことが確認された。しかし、深さ依存性に関しては、a軸とc軸で異なり、深さの増加とともにa軸については増加、c軸については減少するという粉末の場合とは異なる深さ依存性が見られた。格子定数が実験室氷より大きくなる原因として、試料に含まれる微小気泡の内圧の影響が考えられる。また、深さ依存性については、結晶c軸方位の深さ依存性から、コア軸方向に圧縮応力が、それと垂直方向に引張応力がはたらくとして説明できる。
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