リン酸塩ガラスにおけるプロトン導電性の発現を明らかにするために、擬2元系よりも耐久性を向上させたリン酸塩ガラス12BaO-12Sr-12PbO-64P205を中心として合成条件による赤外吸収特性、比熱ならびに伝導特性の変化を測定し、以下の結果を得た。 1) 900℃以上で溶融したガラスについては、すでに提案されているプロトン伝導度がプロトン濃度の2乗に比例するという関係に従うが、それ以下の温度で溶融したガラスではプロトン濃度から期待されるプロトン伝導度より大幅に増加する。 2) プロトン伝導度ならびに比熱はガラス転移温度に比例する。このことはガラス中に含まれる全水分量がガラス転移温度とプロトン伝導度を支配していることを示唆している。ガラス中の水にはリン酸鎖中でOH基として存在するものと水分子の状態で存在するものがある。赤外吸収スペクトルの測定から低温で溶融したガラスではOH濃度に上限があると考えられることから、これに代わって水分子が増加すると考えられる。 3) 交流インピーダンス測定から、プロトンホッピングの活性化エネルギーは高温で溶融したガラスではほぼ一定、低温で溶融したガラスではイオン伝導の活性化エネルギーにほぼ等しい。このことから、プロトン生成のエネルギーはガラスの溶融温度低下とともに減少し、低温溶融ガラスではゼロになると考えられる。以上の結果から、リン酸塩ガラスでは溶融温度によって以下のような伝導機構の変化が生じていると考えられる。高温溶融ガラスでは熱的に生成されたプロトンが直接非架橋酸素をホッピング伝導するのに対して、低温溶融ガラスは遊離したプロトンがすでに存在し、これがガラス中に分散する水分子を媒介としながらホッピング伝導をする。このため、低温溶融ガラスでは高プロトン伝導性が実現しているものと考えられる。
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