研究概要 |
スピントロニクスの研究分野において,スピン偏極度の高い電流を作り出すことが最も重要な課題の一つとなっている。本研究の目的は,それを可能とする素子「スピン偏極電流生成デバイス」を開発することである。スピン偏極電流生成デバイスの材料として,本年度はダブルペロブスカイトLa2NiMnO6(強磁性絶縁体),ホイスラー合金Co2MnSi(ハーフメタル)に注目して研究を行った。電子状態とスピン依存伝導特性に関して得られた主な成果は以下の通りである。 1.ダブルペロブスカイトを用いた接合:La2NiMnO6の電子状態を第一原理計算により求め,Lee-Fisher公式を用いてトンネル接合のコンダクタンスを計算した。バンド・ギャップ中のフェルミ準位の位置がスピン偏極度にとって重要であること,また常磁性金属電極としてLaNio3を用いた場合に高スピン偏極電流が得られることが示された。 2.ホイスラー合金を用いたトンネル接合:第一原理計算を用いてCo2MnSiの電子状態を調べた。これにより,少数スピン電子の電子状態に見られるギャップ構造とクーロン相互作用の大きさとの関係を明らかにした。また,得られた電子状態をもとにトンネル・ハミルトニアン法を用いて,接合中の電流を計算した。ただし,スピン反転散乱の効果は現象論的に取り扱い,電流および磁気抵抗効果の温度依存性を調べた。この結果,接合の界面近傍に存在する磁性不純物等によるスピン反転散乱が,磁気抵抗効果減少の主要因の一つであることが明らかとなった。このことは,界面エンジニアリングによって,界面構造,界面電子状態を制御することで,磁気抵抗効果の温度による減少を改善できることを示唆している。
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