本年度はフラクタルスペックル構造をもつランダム媒質の光散乱特性に関するシミュレーション、および微粒子媒質やスペックル形状樹脂媒質の実験を行った。研究成果は以下の通り。 1. フラクタルスペックル構造をもつランダム媒質を計算機内に作成し、これに光を照射したときに生じる媒質内部の散乱光の電磁界変化をFDTD法により解析した。次元を前年度の3次元から2次元に落とし、より大きなフラクタルスペックル媒質を解析したところ、通常のスペックル媒質に比べてより強い光閉じ込め効果を示した。しかし、この違いがフラクタル性によるものか、単にスペックル粒子径の分布状態の違いによるものかについては不明であり、今後の検討課題である。また、光の増幅・発振が計算可能な、レート方程式を組み入れたシミュレーションプログラムを完成させた。 2. 二つの異なる平均粒径をもつ球状酸化チタン微粒子をさまざまな割合で混合分散した色素ドープ固体ポリマー媒質を用いて、ランダムレーザー発振実験を行った。その結果、ある割合で混合した多分散微粒子媒質は、単分散媒質に比べて共鳴型ランダムレーザー発振が起こりやすいという結果を得た。励起光の浸透距離を最大にする粒子径と、誘導放出光が媒質内部に長時間滞在する粒子径とは異なっていることから、それぞれにとって最適な粒子を混合することで、より効率的に発振する状態が作り出せたのだと考えられる。 3. 薄膜状光硬化性樹脂にスペックルパターンを照射し、光増幅ランダム媒質を作製した。樹脂の保持媒体を以前のスライドグラスから網に変え、薄膜の両面が空気に触れる状態にしたところ、以前は形成できなかったスペックルパターン状の微細孔群を形成することに成功した。ただし、孔の直径は100μmオーダーと大きく、孔の密度も十分ではなかったため、ランダムレーザー発振を観測することはできなかった。
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