研究概要 |
音の熱機関は可動部を持たず,熱交換器と蓄熱(冷)器だけから構成される極めて単純なエネルギー変換器である.それらは熱音響現象に属し,本質的に可逆熱機関である進行波型と,不可逆性を利用した定在波型熱機関に分類されている.最近,ループ管を用いた進行波型熱機関が実現したことで,冷凍機や発電機への実用化の可能性が高まっている.その一方で,熱音響現象を理解するために提案された新しい概念が注目されている。「熱流」,「仕事流」なる移動量である。従来平衡熱力学で熱機関を説明するために用いられてきた「熱」や「仕事」とは基本的に異なる。「仕事流」の空間分布を測定することで,エンジンが定在波型か進行波型の熱機関であるかの分類を可能にするばかりか,注目する熱機関の「仕事源(エネルギー変換)」を特定することが出来る。熱機関を発展・改善するためにはこれらの物理量の計測は必要不可欠である。 本研究の目的は「仕事流」を測定することによって,熱機関におけるエネルギー変換を直接観測することである。熱機関としては,最近開発された極めて単純な「パルス管エンジン」を用いた。スターリングエンジンとよく似た熱機関で,可動部であるピストンを1つ持つが位相調整部分を全く持たない。実験では,パルス管内部でLDVを用いて「仕事流」が測定された。パルス管内部において熱機関として有効なエネルギー変換がなされ,その結果仕事流がパルス管内部から湧き出でくることが実験的に直接観測された。仕事流を計測することで,この熱機関が定在波型熱機関に分類され,仕事源がパルス管内部にあることが示された。これらの実験事実は,「仕事流」なる新しい概念が熱機関を理解するための重要な物理量であることを強く支持する結果となった。
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