昨年度予算にて購入した膜厚モニタのPC制御ソフトは5月に開発し、製膜速度の位置分布を測定できる耐性が整った。本装置を用い、パルス電源を用いて行った高電力パルススパッタにおける製膜速度の電力依存性を測定した。パルス電源での製膜速度はDC放電の場合とは異なる電力依存性を示し時間平均電力100W以下においては、むしろDCよりも高速な製膜速度を示した。パルス放電のoff期間のターゲット電圧を制御するような機能を電源に付与し、実験を行なったところ、この電位による放電の不安定性を確認できた。また電位を印加したスパッタ製膜では、DCの場合とは顕著に異なった薄膜構造が得られた。これは、パルス電力のoff期間にターゲットに意図的に印加した正のバイアス電圧によって、高密度のアフターグロープラズマのプラズマ電位が接地した基板よりも高くなり、プラズマ中に含まれる正イオンが高いエネルギーを持って基板に入射し、膜構造を変化させたものと理解できた。 一方組成制御の面からは、チタン金属ターゲットを窒素雰囲気下にてスパッタし、TiN薄膜を作製する実験を行なった。窒素に比べて10^<-2>~10^<-3>程度の微量の酸素を導入する実験を行い、薄膜に取り込まれる酸素の濃度をX線光電子分光法によって調べた。膜における酸素組成比は、ターゲットからの金属フラックスと酸素ガスの流量との比率によって良く記述でき、これは堆積時の膜における酸素の付着確率が顕著に高いことに起因することが理解できた。特に複数種類のガスが混在する反応性スパッタプロセスにおいては、ガスによる付着確率の効果が大きく影響することを明らかにできた。
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