本年度はナノ流体の高熱伝導性の機構を明らかにするため、種々の液体を用いた熱対流(ベナール対流)の実験やナノ流体の分子動力学シミュレーションを行った。 熱対流の実験はシリコン油、流動パラフィンおよび水を用いて行った。シリコン油は粘性が大きいので液体層が薄い場合六角形の規則的な対流パターンが見られる。対流パターンの可視化にはアルミ粉を混ぜる方法とサーモグラフィーで温度分布を直接可視化する方法を併用した。アルミ粉の存在が液体の熱伝導や動粘性係数を変化させる。添加するアルミ粉の量に対する対流パターンの変化から液体の熱的性質の変化について検討した。水の動粘性係数はシリコン油や流動パラフィンよりかなり小さいので対流が見られる液体層は厚くなる。シリコン油に比べてパターンは不規則でありサイズは厚さに比例して大きくなっていた。カーボンナノチューブを添加した水(ナノ流体)についての実験も続けている。 一方、シミュレーションではレナード・ジョーンズ(LJ)ポテンシャルで表せる原子系に温度差を作り、液体と固体界面を持つモデルを扱った。固体近傍での液体の熱伝導増加の原因として微小な対流の励起が考えられている。分子動力学シミュレーションでは全原子の座標を追跡できるので原子のマクロな集団運動としての対流ばかりでなく、原子的な視野での分子運動による熱伝達機構についても解析を進めている。水(H_2O)の場合にはイオンのもつ電荷や水素結合の影響も大きいと考えられる。次年度の研究の準備として、水分子の相互作用を表わすKKYポテンシャルを用いたシミュレーションの計算コードも開発した。
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