本研究では、窒化ホウ素のナノ秒レーザーアブレーション過程において、ダブルパルスレーザー照射によるイオン制御技術を開発するとともに、プラズマ中のイオンダイナミクスを解析し、イオン軌道を制御した薄膜の合成方法を開発する。そのために、プラズマの診断、照射レーザーのダブルパルス化による生成プルーム(放出粒子群)中イオン価数及びイオン密度の制御、得られたプラズマ特性に基づいたホウ素イオン軌道制御による窒化ホウ素薄膜の堆積、この3つを軸に研究を進めた。今年度の実施状況を以下に記す。 ダブルパルスレーザー照射では、XeClエキシマ(308nm)およびNd:YAG(1064nm)レーザーをそれぞれ第1パルス、第2パルスとして窒化ホウ素ターゲットに同軸上で照射し、生成イオン挙動を静電プローブ、四重極型質量分析計およびターゲット近傍の発光により検出した。その結果、第2パルスレーザーの遅延時間の変化により生成イオンの量と価数が制御できることを明らかにした。これにより化合物レーザーアブレーション成膜の欠点とされている、ターゲット材料からの組成ずれのない化合物薄膜作製の可能性を示すことができた。さらに薄膜合成では、プルームの中心軸上にてイオンを偏向電極に導入しイオン軌道を制御した後、負電位にバイアスした基板に到達させた。プルーム中のイオンと中性粒子を区別するためにイオン偏向角度は90度とし、高速イオンの軌道制御および運動エネルギー選択を容易にするために静電型多段平行平板偏向電極を採用した。この電極を設置して窒化ホウ素のアブレーションを高真空中で行い、基板にイオンを蒸着させて基板の元素分析を行った結果、基板上の薄膜はターゲット材料とほぼ同じ化学組成を示すことが判明した。
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