本研究では、ダイナミカルノイズのカオスへの影響解析を行った。特に、解析の視点を従来のマクロからミクロへと移して行った。ミクロな視点の手法として、本年は、局所的な特異値分解法に着目した。位相空間上に任意の点を取り、その点を中心とした局所空間を定義する。その局所空間内の位相点に対して特異値分解を行う手法である。C言語によるプログラムを作成することに依り本手法を実現し、Chuaの電子回路モデルに対して本手法を適用して解析を行った。その結果、マクロな視点では得られなかった幾つかの重要な特徴的な変化を抽出することができた。例えば、ノイズレベルの変化に対する特異値のゆらぎの変化の仕方に、特異値の間で違いが見られたことである。これはノイズに依って引き起こされたシステムの局所的な変化が、マクロの場合のように全体の変化として平均化されることなく、局所的な変化のまま詳細に捉えられたことを意味しており、ダイナミカルノイズに依って生じた局所的な影響が全体へどのように及ぼされるのかを詳細に分析する上で有益であると思われる。ただ、位相空間上でダイナミカルノイズに特に鋭敏な領域の特定やその領域についての解析は十分には行うことはできなかった。また、局所空間の探索にはマクロな場合と比べて非常に多くの計算時間を要することがわかった。局所空間のサイズや着目する点の適切な選択、局所空間の効率的な探索手法の確立等、本手法を実用的に利用する為にも、さらなる検討が必要である。他方、本手法でも、観測ノイズの存在下で、観測ノイズに影響されることなくダイナミカルノイズ独自の特徴的な挙動を抽出能なことがわかり、マクロな視点での特異値分解を用いた手法の利点がミクロな場合にも有効であることがわかった。
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