本研究では、あらゆる系に本質的に内在する「ダイナミカルノイズ」のカオスへ及ぼす影響を抽出する、既に提案している手法を発展させ、より効率的にその影響の抽出が可能となると期待されるミクロな視点からの2種類の抽出手法を新たに提案した。 電子回路で生じるカオスモデル(Chua's circuit)から得られた1次元時系列データを用いて構築した位相空間上で複数の対象点を選択し、(1)局所的な特異値分解法(Local SVD)、(2)サポートベクターマシン(SVM(Support Vector Machine))を用いた手法を適用して、局所的な特異値のゆらぎを調べた。 その結果、手法(1)では、マクロな視点では得られなかった特異値間でのゆらぎの違い等、幾つかの重要な特徴的な変化を抽出できた。これはダイナミカルノイズに引き起こされたシステムの局所的な変化を、マクロのように平均化されることなく、局所的な変化のまま詳細にその影響を捉えたことを意味している。ダイナミカルノイズに依って生じた局所的な変化の全体への影響を詳細に分析する上で有益であると思われる。手法(2)では、観測ノイズの存在に依らず、ダイナミカルノイズに特徴的な変化を抽出できた。幾つかのパラメータ値を用いて解析を行った結果、いずれの場合も定性的には同様の結果が得られたが、抽出される特異値のゆらぎの大きさには違いが見られ最適なパラメータ値が存在することが示唆された。 手法(1)での局所空間の探索や、手法(2)での高次元空間での高次行列の構築には、想定以上に多くの計算時間を要することが判明した為、ハード面では、計算機性能の向上とクラスターに依る並列化、ソフト面では、並列計算機用アルゴリズムMPI(Message Passing Interface)規格に基づいた並列化プログラムを作成し利用することに依り、計算効率の改善が図られた。 上記カオスモデルの電子回路を実装して実データを取得し、マクロとミクロな手法に適用した。その結果、いずれの場合も定性的にはお互いに類似の結果を得ることができた。実験条件の制約に依りデータ数を十分に取得できない場合や、外部からのノイズの影響等で、統計的に安定した結果を得ることが困難になる場合もあったが、比較的少数のデータ数に対しても、ダイナミカルノイズの影響を十分に抽出可能であることがわかった。特にミクロな手法(1)においては、局所的な特徴的な影響がより明瞭に抽出可能であった、これより、実データに対してもミクロな本提案手法が有効であることが示された。
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