研究概要 |
流れを代表するレイノルズ数が小さい場合には,流体粒子のカオス的な運動を用いて混合を行うのが有効である.流体粒子のカオス的な運動が可能である3次元定常流れにおいては,このような運動をもたらす流れによる効率の良い流体混合が期待できる.流体粒子のカオス的な運動を用いて流体の効率的な混合を目指す研究は,カオス混合の研究と呼ばれる.本研究では,曲率と捩率が周期的に変化する曲がった円管内を流れる流体のカオス混合を調べた.具体的には,楕円形の筒に巻きつけられ筒の軸方向に周期的に変位するらせん状の円管の中を,管軸方向の圧力勾配によって流れる流体の運動を調べた.そして,流体の断面方向のカオス運動と混合のようすをポアンカレ断面などを用いて調べた.その結果,円管の1周期の間でのλ=12τ/κReの値の変動幅が,混合効率の1つの指標として大変有用であることがわかった.ここで,κとτは円管の中心を通る曲線の曲率と捩率であり,Reは流れのレイノルズ数である.すなわちλは,円管が曲がっていることによって作り出される2つの渦をもつ断面方向の流れと,円管が捩れていることによる断面方向の剛体回転流れの強さの比を特徴づける量であり,この値が0から1までの範囲で大きく変動することが効率の良い混合をもたらすことが,さまざまな曲率と捩率をもつ円管での混合の計算からわかった.また,混合効率の定量的な指標を導入し,この指標に基づいて,ある中間的なReの範囲において最も混合効率が良くなること,円形の筒に巻きつける場合は筒の半径が小さいほど混合効率も良いこと,を定量的に示した.さらに,ポアンカレ断面においてカオス領域が広くなるようなパラメータにおいては,混合すべき流体の初期配置によらず短時間での混合効率が良いが,カオス領域が狭くなるパラメータにおいては,この混合効率が初期配置に大きく依存することもわかった.
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