研究概要 |
ミクロンスケール金属材料の機械的性質の寸法依存性について,その実現象を実験により系統的に調査するとともに,その適切な物理的解釈に基づく新しい塑性理論の構築を目指して研究を行った.当初は,最初から単結晶材料を主眼において実験を行う予定であったが,質的に安定した試験片の作製に対して技術的にクリアすべき点がいくつかあつたため,まずは多結晶純アルミニウム箔材料を用いて,引張・曲げ試験を行うこととした. 多結晶純アルミ箔を用いた実験の結果,箔厚を減少させるに伴って,引張試験では単純に降伏応力のみが上昇するのに対し,ひずみ勾配を含む曲げ試験では降伏点上昇に加えてひずみ硬化係数も上昇することを確認した.当初からの懸案である単結晶箔の作製と実験は,平成19年度後半に実施可能となり,いくつかの予備試験を終了した.平成20年度には,本格試験を開始する準備を整えている. 上記の実験事実を踏まえて,塑性ひずみ勾配場を成立させるために必要な「幾何学的必要転位」が作る内部応力が転位の運動速度に及ぼす影響を考慮した高次勾配結晶塑性理論を整備・提案した.同理論は,三次元テンソル代数を駆使して,厳密に幾何学的非線形性(大変形効果)を考慮することができる.さらに,提案理論は,数年前に他の研究者が提案した高次応力という新概念を導入した勾配塑性論とある種の数学的等価性を持つことを示した.現状の理論では勾配効果のみを考慮可能であり,一様ひずみ場における初期降伏応力の寸法効果を表現することができない.実験により確認されているこの効果をいかに合理的に理論モデルに導入するかは,平成20年度の課題である.
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