研究概要 |
生体組織の全てが有する粘弾性的性質についてのこれまでの研究は,限られた材料試験法のみの評価であり,特に生体組織の超微小領域における粘弾性特性については,全く不明であるといっても過言ではない.本研究では生体組織の微小領域の動的粘弾性的性質を明らかにするために,骨や軟骨を対象に動的ナノインデンテーション実験を行うことを主な目的としている.本年度は骨に関しては,週齢の異なるラット大腿皮質骨に対して,動的ナノインデンテーション試験を行い,骨単位および介在層板における動的粘弾性パラメータである貯蔵弾性率および損失正接を求めた.また,骨試験片中のミネラル質,有機質および水分重量含有率がこれらのパラメータに与える影響について検討した結果,皮質骨組織の骨単位内部の方が介在層板よりも貯蔵弾性率は低く,損失正接はわずかに高いという傾向がみられた,ミネラル質重量含有率と貯蔵弾性率との間には正の相関が,有機質と水分重量を加えた含有率と損失正接との間には正の相関がそれぞれ認められたこと等を明らかにした.軟骨に関しては,これまで軟骨の有する力学的異方性について検討した研究例はみられない.そこで本研究では,剛体基礎(軟骨下骨)上に密着した横等方性弾性層(関節軟骨)上面を円柱状剛体圧子で押込む軸対称弾性接触問題を厳密に理論解析した.解析においては,剛体圧子接触面の垂直応力に対して未知係数を含む無限級数で表示することにより,連立積分方程式から未知係数を求める無限連立1次方程式の解法問題に帰着させた。数値結果から弾性層上面の接触応力分布および垂直変位等を示すとともに,これらに及ぼす弾性層の異方性の程度や厚さの影響について明らかにした.これにより実際の軟骨のインデンテーション試験における解析を容易にできることを示した.
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