研究概要 |
あらかじめ焼入れ(固溶化熱処理)して炭化物形成元素を素地中に溶解させた鉄鋼材料の表面をアルゴンイオンでスパッタエッチングすると、析出炭化物を起点とした円錐状の微細突起物(半径:数10nm〜数μm、高さが半径の約3倍)が形成される。この突起物は、高分子膜の光学特性や印刷特性を改善するための転写ロール、触媒、コールドエミッター、耐摩耗コーティング部品の下地などに利用できる可能性があるが、その機械的性質は知られていない。本研究では、この突起物を有する製品を実用化するためた重要な、突起物の機械的性質、耐食性などを明らかにすることを試みた。その結果は以下のとおりである。 1.エネルギー分散型X線分析の結果によると,SUS304ステンレス鋼に形成される突起物の表面にはCrが偏析するが、突起物内部の成分は素地とほぼ同じである。 2.円錐状突起物を形成したSUS304試験片の引張り試験結果によると,円錐状突起物は破断ひずみ(53%)に達しても素地と強く結合していて,脱落しない。また,スクラッチ試験の結果,円錐状突起物は脱落せずに引き倒される。その強度は,スクラッチカと走査電子顕微鏡の表面観察結果を対比することにより推定できる。突起物を有する表面にアルミニウム板を押し付けたところ,突起物も変形するが,アルミ板には深い穴ができる。このように,突起物の強度は大きくて脱落しにくい。 3.円錐状突起物を形成したSUS304鋼試験片の腐食試験によると,突起物表面にCrが偏析しているためスパッタエッチングしない表面に比べて孔食は起こりやすいが,自然腐食状態では耐食性が向上する。 4.突起物を有するSKH51鋼試験片にSiC薄膜を,またSUS304鋼ワイヤにAg-Ti薄膜をスパッタコーティングすると,突起物がない場合に比べて,薄膜のはく離強度が上昇する。
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