超精密旋盤にて、切り込み量が微小となるステンレス鋼の超精密切削を行った。オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304およびSUS316において、同一の加工条件下で得られた仕上げ面粗さでは、SUS304が悪い結果となった。さらに、SUS304の仕上げ面における硬度はSUS316よりも高くなっていた、仕上げ面の組織を観察すると、SUS304の超精密切削仕上げ面に、マルテンサイト組織が観察された、X線解析試験で評価すると、SUS304の仕上げ面にオーステナイト組織のみではなく、マルテンサイト組織を含有することが確認された。一方、SUS316の仕上げ面は、元来構成されるオーステナイト組織からなり、加工硬度が軽微であることが確認された。 次に、マシニングセンタを用いて、エンドミル工具によるステンレス鋼の切削実験を行なった。切削速度の増加に伴って、マルテンサイト組織を含む加工変質層が増加した。工具送り量においては、小さいほど、加工変質層の厚みが増している、以上のことから、高速な切削速度で、小さい切り込み量のとき、仕上げ面における加工変質層が増し、仕上げ面の硬度も上がることがわかった。 ニアネットシェイプを要求される金型加工などにおける最終仕上げ切削工程では、切り込み量が小さく設定されるのが一般的である。ステンレス鋼SUS304の場合、低切り込みとなる加工条件は、仕上げ面における加工変質層の増加に大きく関与する、低切り込みがもたらすSUS304のマルテンサイト変態は、仕上げ面性状の悪化ばかりではなく、工具寿命を短くする、次年度では、切削工具が工作物に与える切削抵抗を計測することによって、オーステナイトからマルテンサイトに変態する切削機構を実験的に検討する。マルテンサイト変態を制御することによって、ステンレス鋼の仕上げ加工における最適条件を確立することを目指す。
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