切削用単結晶バイトの実現に不可欠な、ダイヤモンド単結晶基板でのホモエピタキシャル成長技術に関して、再現性を低下する要因である加工表面に残存する加工変質層を酸化性の酸素-アセチレン炎でエッチングすることでステップ成長の段差の少ない平滑性の良好な単結晶ダイヤモンド膜を再現性よく合成できることを確認した。 このほか、得られるダイヤモンド膜の結晶性を向上させる手段として、ボロンのドーピング効果について検討を行った。ボロンは原子番号が5と炭素の6に対して小さく、置換型で添加できる元素である。ダイヤモンド合成中にトリメチルボロンを微量添加することでダイヤモンド中へのボロンドーピングが可能となる。具体的な合成雰囲気中への添加量は、ダイヤモンドの原料となる炭素に対してボロンを1000~10000ppmを添加した。その結果、5000ppmまでのボロン添加において、得られるダイヤモンド膜の結晶性が向上し、5000ppmを越える場合は結晶性が低下することが明らかになった。これらのボロン濃度の異なる雰囲気で合成した多結晶ダイヤモンド膜について、耐摩耗試験を行った結果、最も高い結晶性を示した3000ppmで合成したダイヤモンド膜の耐摩耗性が良好で、ノンドープの2.5倍の値を示した。さらにボロンドープにより電気伝導性も得られ抵抗率は10^<-2>Ω・m程度を示し、放電加工が可能な値を示した。すなわち、微量のボロンをドーピングすることで、破壊強度を向上させるとともに、放電加工が可能な電気伝導性を付与できることを明らかにした。さらに、ボロンドーピングによりダイヤモンド中の圧縮残留応力が減少し、超硬合金基板に対する付着力が20%程度向上することを明らかにした。
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