本研究は、ニアドライ加工の代表であるMQL加工について、合成系エステル油剤等の潤滑剤や潤滑剤そのものの処理方法も対象にしてトライボロジー挙動を調べ、それらの結果をアルミニウム合金や難削材の切削性能と関連づけて検討することで、MQL加工の最適化と応用範囲の拡大につなげ、ニアドライ加工技術の高性能化に貢献することを目的としている。本年度に得られた研究成果は以下のとおりである。 1. 合成エステルや比較対象となる各種油剤のトライボロジー特性評価 アルミニウムのMQL加工においては、スチール材に最適な合成系エステル油剤やアルコール、酸など、いわゆる含酸素化合物の一部に優れた潤滑効果をもつものがあることを究明した。 2. 実用ニアドライ加工試験による切削性能の評価 MQL方式によるアルミニウム合金のタッピング加工、穴加工、エンドミル加工等において、含酸素化合物の切削性能は必ずしもトライボロジー特性評価による潤滑効果の優劣とは一致しないが、特定のアルコールが極めて高い切削性能を示すことを見出した。さらに、そこへマイクロバブル微分散装置を適用して水を併用すると、切削性能を向上できることがわかった。 一方、いくつかのステンレス鋼を対象にして、複合ミスト供給装置によるニアドライ方式のエンドミル加工を行い、ステンレス鋼の材種によって各種油剤の切削性能がまったく異なることを明らかにした。 3. 油剤のトライボロジー挙動におよぼす吸着特性の影響の考察 アルコール、酸、エステルのモデル含酸素化合物の金属新生面への吸着特性を調べ、これら油剤の吸着挙動としては、吸着速度ではなく吸着活性の方が切削性能の優劣とよく相関することを解明した。また、アルミニウムを対象とした場合、水の存在による併用効果は、切削性能を低下させる酸素の吸着を阻害することに起因する可能性があることを示した。
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