研究概要 |
平成20年度に試作した股関節用ゴニオメータを利用して股関節の骨頭と臼蓋軟骨間との相対滑り状態を描けるようになった.しかしながら滑り線軌跡を計算するには骨頭の回転中心を体型より推定した値を使う必要があった.マルチカメラによる市販の運動解析システムでも股関節中心位置は統計式より求めており,そのために発生する誤差について指摘した論文もある.そこで平成21年度はゴニオメータの回転中心と股関節の回転中心とがオフセットしているために発生する,歩行に伴うリンク長の変化をひずみゲージを利用した距離計により評価することで,股関節中心を推定する方法を考案した.機構学的モデルでのリンク長と,ひずみゲージより得られるリンク長との偏差平方和を極小とする相対位置関係を,非線形最小二乗法を利用して求めた.精度を確認するため,股関節の代用として球面軸受を用いて予め相対位置関係の明らかな実験装置を作り,2つの角度センサとひずみゲージからの出力を基に,相対位置が計算より得られることを確認した.完成したゴニオメータと解析ソフトを利用して,複数の被験者の歩行中の股関節の滑り線軌跡を描いた.その結果,滑り線軌跡は被験者の歩き方の特徴を反映したものになることが分かった.開発した股関節用ゴニオメータは,股関節と膝関節付近のある点Pとの距離は不変であることを利用して,P点の動きをゴニオメータにより計測した角度と距離の変化から評価して股関節の運動を求めるものである.そのため従来のゴニオメータのように両者の回転軸を正確に合わせる必要はなく,取り扱いの容易なゴニオメータを開発することができた.本研究は逆転の発想からオフセットに伴う誤差の変動を,股関節中心の推定に利用していることに特徴がある.
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