研究概要 |
摩擦面間に通電を行うと摩擦特性が向上したり,摩擦係数を制御できる等の研究は既に報告されているが,転がり軸受に電流が流れると電食が発生し,損傷してしまう.したがって,転がり軸受内部に電流を流すことは,複写機の転写ローラ用軸受等導電性グリースを封入した一部の軸受を除いては厳禁とされてきた.しかし,最近ではインバータからの高周波ノイズ等が原因で電食が発生する例も見られるようになってきた.意図せず軸受内を電流が流れる事態が起こる可能性が高くなっており,直流・交流における小型玉軸受の厳密な電食発生条件の確立が求められている. 転がり軸受の電食については,鉄道車両電動機用軸受を中心に研究が進められており,電食発生の目安も明らかにされている.しかし,これまでの研究は鉄道車両用の中型軸受で行われており,家電品や小型モータに使われるような小型玉軸受を対象とした研究は,ほとんどない.また,研究が盛んに行われた時期が1960年代であり,測定機や分析機器が現在ほど精密ではなく,電食発生の検出感度も十分ではなかったと考えられる.そこで本研究では,小径玉軸受を対象にして,電流密度を細かく設定した直流電圧印加における回転試験を行ない,従来の電食発生の目安が適用できるかの検討を行った. 実験の結果,小径玉軸受の電食発生限界電流密度は,0.04A/mm^2程度であり,従来電食発生目安とされていた電流密度(1A/mm^2)よりも2桁小さな値であることが明らかとなった.電流値としては10mA以下であり,漏れ電流程度でも小径玉軸受に電食が発生する可能性があることを示唆できた.
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