摩擦により生じた材料表面膜は、ナノ結晶化、非晶質化、相手材とのMA化により微細構造を持ち、高硬度で耐摩耗性・耐腐食性に優れ、化学的に安定な耐凝着性に優れた高機能な膜であると考えられる。1年目の平成19年度では、摩擦を利用した表面膜を、(1)同種金属同士における高速高面圧摩擦(主に塑性ひずみと熱を付与)、(2)異種相手材による移着、(3)摩擦面へのナノ粒子の供給による摩擦焼結、の3つの手法により生成させ、この材料表面膜の物性評価に重点を置いた。その結果、(1)大気中のピンオンディスクすべり摩擦を施した炭素鋼(S45C)では、摩擦速度0.5m/s以上、荷重19.6N以上、純銅(Cu)では、摩擦速度0.1m/s以上、荷重19.6N以上で、摩擦面に母材組織とは異なる微細組織が確認された。炭素鋼(S45C)の最表面(摩擦表面から5μmの位置)をTEMで観察すると、サイズが30〜50nmの結晶粒が認められ、摩擦によるナノ構造化を発見した。さらに、ナノ結晶粒の周りにはコントラストの無い組織も認められた。また、摩擦表面層のビッカース硬さは母材より上昇し、炭素鋼(S45C)で母材硬さの4倍、純銅(Cu)では2倍に達した。(2)真空中で金属同士を摩擦させると材料移着により表面膜が生成することを見出した。とくに、炭素鋼ディスクに純Cuピンを摩擦させて生成した材料移着による表面膜は耐摩耗性に優れ、さらにその上に純Agピンを摩擦させて生成した複合表面膜は極めて優れた摩擦摩耗特性を示した。(3)真空中で金属の微粒子を摩擦面に供給して生成した表面膜においては、Ag粒子やBi粒子による表面膜が最も優れた摩擦摩耗特性を示すことがわかった。
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