摩擦により生じた材料表面膜は、塑性ひずみの導入や材料移着によるナノ結晶化、相手材との合金化により微細構造を持ち、高硬度で耐摩耗性、耐凝着性に優れた高機能な膜であると考えられる。3年目の平成21年度では、摩擦を利用した材料移着膜の生成機構に加えて、その表面膜のトライボロジー特性の評価に重点を置いた。具体的には、ディスク材料として炭素鋼S45C、ピン材料として純Cuを用いて真空中(9.9×10^<-4>Pa以下)でピンオンディスク摩擦試験を行い、ディスク表面に生成したCu移着膜を詳細に観察した。試験後の摩擦面はマイクロスコープにより観察し、ディスクに生成したCu移着膜断面は光学顕微鏡およびTEM(透過型電子顕微鏡)による観察を行った。さらに、Cu移着膜を生成したディスク摩擦試験片とS45Cピンを用いて耐摩耗試験を行なった。 その結果、ディスクに生成したCu移着膜の摩擦方向に垂直な断面のSTEM観察において、Cu移着部では粒径が15~180nmのナノ結晶化した微細組織が認められた。また、S45C側の界面付近では、層間距離が30~50nmの微細なラメラ組織が観察された。さらにEDS元素マッピングにより、50~100nmのサイズのFe粒子がCu移着膜の中に混入しているのがわかった。ディスク回転回数を変えた摩擦面の観察結果から、S45Cディスクの微小なFe粒子がピンに移着し、そのFe粒子を含んだCuがディスクに移着して、Cu移着膜が生成したと考えられる。また、Cuピンから直接ディスクに移着して、Cu移着膜が生成する場合もある。生成したCu移着膜の耐摩耗試験では、Cu移着膜の生成していない旋盤加工のままのS45Cディスクと比べて長くマイルド摩耗が続き、Cu移着膜による耐摩耗性向上の効果がみられた。また、Cu移着膜の生成後Ag移着膜を生成させると、さらに良好な摩耗特性が得られた。
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