Si(111)清浄表面に1原子層の銀原子が化学吸着したSi(111)√3×√3-Ag表面(以下、√3-Ag表面)に2.5-50nmの銀多結晶膜を成膜し、先端曲率半径3mmのダイヤモンド球で摩擦した場合の、摩擦配向度と摩擦係数減少率の関係を調査した。その結果、摩擦減少率は10nm以下の平均膜厚において顕著に生じ、膜厚が20nmよりも厚くなると生じなくなることが、超高真空中における摩擦試験結果と放射光によるX線回折の解析結果より明らかになった。摩擦係数減少率と摩擦配向度の間の強い相関性は、力学的特性である摩擦配向度を評価代用値として、摩擦配向度をモニタしうる可能性を示すものである。また、放射光を用いた極端に非対称なX線回折による解析の結果、垂直荷重と摩擦配向との関係に関し、摩擦時のヘルツ面圧の増加に伴い、摺動回数10回あたりの摩擦配向度は増加するが、垂直荷重が500mN以上になると基板と膜の界面に永久歪みが生じることが明らかになった。従って、基板に塑性変形を生じさせない垂直荷重は250mNが妥当であることが明らかになった。 また、摩擦配向させた平均膜厚5nmの銀薄膜上へ追加蒸着により更に銀薄膜を成長させたエピタキシャル成長膜と、摩擦配向させていない平均膜厚5nmの銀多結晶膜上へ銀薄膜の追加蒸着を行った膜との間のX線回折強度比のコントラストは、膜厚の増加と共にコントラストが弱まり、膜厚約2.5μmのときにコントラストはほぼ消失することが明らかになった。 これらの知見は、摩擦条件の最適化を図ることにより、金属薄膜の摩擦配向度を向上させ、配向性の異なる二つの領域のX線回折強度比コントラストを生じさせ、その強度比を任意に制御しうることを示唆している。
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