研究概要 |
人工換気法としてその有効性が注目されている高頻度振動換気法(HFOV)適用時の気管から肺末梢組織までの呼吸振動流においては、通常呼吸時のガス交換機構に加えて、呼吸頻度の増加により肺末梢組織の物理的性質と関連して顕著に現れる振り子流現象が、ガス交換を促進していることが明らかになりつつある。 本研究では,マイクロスケール呼吸細気管支内のHFOV適用時振動気流において、気管支分岐でのコンプライアンスの相違による時定数の相違がどのように振り子流を発生させるか、また生じた振り子流の詳細な流動状態がどのようなものであり、それがガス交換に果たしている役割について実験的に明らかにするとともに、等価回路シミュレーションにより理論的に検討することを目的とし、以下のような結果が得られた。 呼吸細気管支の第18世代から第20世代までの多重分岐マイクロチャンネルモデルを用いて、振り子流発生の要因となる分岐間の位相ズレを、第19世代分岐間についてマイクロPIV法を用いた詳細な時系列流速分布計測により求めた結果、末端コンプライアンス比が大きくなるにつれて位相ズレは大きくなるが、そのズレのオーダーは1/100周期程度であることが明らかになった。一方、粒子追跡法による計測から、左右分岐末端のコンプライアンス比が非対称な場合には、1周期後の粒子位置も非対称であることがわかり、末端コンプライアンス比の違いによって肺末梢分岐で空気の再配置が行われていることが明らかになった。これらの実測値は、等価回路によるシミュレーション結果とよく一致している。 この結果、異なるコンプライアンス端を有する分岐管において生じる位相ズレは比較的小さいが、分岐間の気体粒子の変位量の差は、十分な混合換気をもたらし、振り子流が肺末梢部のガス輸送メカニズムにおいて大きな役割を果たしていることが明らかになった。
|