研究概要 |
当該研究は,生物機能と形態構造との関連による生命機能の発現に関して,植物の生命現象を流体力学的な観点から解明することを目的としている。特に,抗力を利用する細毛の構造形態と機能の関連性に関する普遍的な真理を究明することを目的とし,さらに,それらの応用についてもバイオマイクロ流体工学の立場から考察を進める研究手法を取っている。平成19年度の計画では,(1)流体流動に関連する細毛を有する動物および植物の精密形態形状計測を行い,特にゲンゴロウの後脚に生えている遊泳毛の電子顕微鏡観察を行い,遊泳毛の果たす役割を考察した。その結果,遊泳毛の形状を遊泳方向およびその方向と直角方向に周期的に変化させることによって,推進力を効率よく発生していることが明らかにされた。また,比較的若年のトンボのヤゴの遊泳に関しても,遊泳脚の細毛および遊泳メカニズムを調べた。さらに,その手法を擬似生命体である遊泳ロボットに適用し,非接触でエネルギー供給が行える遊泳メカニズムを試作した。試作した遊泳メカニズムの移動特性についても詳しく調べ,擬似生命体としての資料を得ることが出来た。それらの,動物に関する成果に基づき,同様な手法で,(2)植物の細毛の形態構造と細毛機能を調べた。植物は,成長を通じて自身の形態を大きく変化させるため,成長を通じての時間変化による形態計測,および植物体の各部の形態形状計測を行い,生命力の極めて大きいタンポポに関する多くの資料を得ることが出来た。特に,タンポポの種子の付根に観察される多角形セルパターンに関する統計法則をバーテックスダイナミックスの観点から考察した。その結果,植物に観察されるセノヒパターンは自然界でよく観察される安定形状であることが判明した。その他,(3)植物種子として,やはりタンポポの種子のサイズや重量などの形態学的な計測を行い,1個体での種子の重量分布,種子の長さ分布や厚さ分布などが得られた。それらの形態は,植物の生命維持戦略に密接に関連していると考えられ,次年度での解明を急いでいる状態である。
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