冬ガレイから抽出される不凍化蛋白質タイプI(HPLC6)に注目し、微小領域内の水溶液の凝固への不凍化蛋白質の影響に関連して、温度濃度計測と分子動力学解析を行った。 計測に関しては、HPLC6の特定のアミノ基に蛍光分子を標識し、その希薄水溶液を2枚のカバーガラスの隙間(約20μm)に入れ、一方向に氷結晶が成長するように冷却した。顕微鏡に接続したCCDカメラにより、蛍光と氷-水溶液界面の画像を取り込んだ。連続画像を処理して、界面位置と蛍光強度分布の移動速度を求めた。また、近赤外分光光度計を用いて、局所の温度を測定した。その結果、(1)標準偏差0.12℃の誤差で、約0.001mm^2の極小領域内の蛋白質水溶液あるいは氷の温度が計測できること、(2)蛋白質の高濃度域が氷表面に沿って移動すること、(3)鋸刃状の界面の刃先部と刃元部の温度差は界面移動速度の増加により大きくなること、などが明らかになった。 他方、分子動力学解析に関しては、HPLC6の一部である12個のアミノ酸残基からなるポリペプチドモデルを作成した。また氷との水素結合に関与しているとされる特定のアミノ酸残基を別の残基に置き換えた変異蛋白質のモデルも2種類作成した。これらを含む水、あるいは氷-水混合系に関する分子動力学シミュレーションを行った。得られる統計量を比較し、モデルの側鎖サイトがその周辺の水分子へ及ぼす影響について検証した。計算結果より、変異蛋白質モデルを用いた解析により、他者によって実験的に得られた変異タンパク質の不凍活性と首尾一貫する結果を得た。さらに、相変化を予測できるPhase Field法を組み込む数値計算法を開発し、シミュレーションを行った。その結果、温度分とその変化が予測できることを明らかにした。
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