研究概要 |
本研究の目的は部材の材質や寸法の検討を機械設計の段階で閉じてしまうのではなく,制御系設計と融合させ,動的な力に対する部材の変形量を厳密に見積もることにより,疲労破壊を回避する制御系設計手法を開発することである.そこで平成19年度は,「疲労破壊回避条件の導出」,「目標値入力クラスの検討」,「線形行列不等式に基づく臨界制御系設計方法の考案」という三つの内容に関する検討を行った.以下にその詳細を示す. 1.疲労破壊回避条件の導出 設計対象としたのは,負荷慣性体を弾性を持つ回転軸を介して駆動モータで回転させる機構(2慣性共振系)である.圧延機駆動系などがその例であり,負荷慣性体の角速度や角度を制御するのが目的である.ここで回転軸に弾性があることから,軸にねじりが生じる.繰返しねじりを受けることで最終的に軸が疲労し破断する可能性がある.最もねじり応力が大きくなるのは軸表面であるから,疲労を回避するためには,表面でのねじり応力がある許容値以下に抑えれば良いことになる.そこで許容値を,疲労試験データと米国機械学会(ASME)の提唱する『設計用S-N曲線』に基づき算出し,得られた許容値から軸ねじり角に対する不等式制約条件として導出する方法を考案した. 2.目標値入力クラスの検討 2慣性系のサーボ系に対する目標指令値としては,最終値が非零の定常値となるようなものと,最終値が零となるようなものの二種類が考えられる.したがって,制御系設計ではこれらのいずれも包含するような目標値入力クラスを採用しなければならない.次項で述べる線形行列不等式に基づく設計との親和性をも含めて考慮した結果,目標指令値の変化率(1階微分)のL2ノルムに制限のある入力クラスを採用することが望ましいという結論を得た.ここで重要なのは,制御系設計上は目標指令値の変化率を見かけ上の外部入力として取り扱う点である.これにより制御系設計が容易になる. 3.線形行列不等式にもとづく臨界制御系設計方法の考案 前項の目標値入力クラスを採用することで,回転軸の疲労を回避し,追従誤差や制御入力の上限値を抑えるような臨界制御系設計問題は,多目的H2制御問題として定式化されるという結論を得た.この問題は線形行列不等式の形で書き表すことができる凸計画問題となることから,解が存在すれば必ず見つけることができる.そこで,線形行列不等式に基づくH2シンセシスにより臨界制御系設計をおこなう方法を考案し,設計用ソフトウェアを構築した.
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