繊維工場における動力軽減・自動化の推進・システムの最適化を行う上で重要となる「糸と空気流の関係」について広範囲かつ系統的な理論を確立し、糸に空気流が作用する際の抵抗力や、逆に空気流を使って様々に糸を操作するための技術的な基礎資料を提供しようとしている。今年度は、コンピュータによる流れのシミュレーションの精度向上と実測値との比較、実際に管路に糸を挿入した際の高速度カメラによる糸挙動の観察および糸の送出条件(自由飛走、抑制あるいは強制送り)の効果などについて検討を加えた。 管路の組み合わせや空気供給圧力による管路外の空気流変化を実験とシミュレーションから解析し、そこに糸を挿入した場合の速度測定や姿勢観察を行った結果、糸を素早く飛ばそうと供給圧力を高くすれば、糸の初期飛走速度はある程度上昇するが、糸が振動したり湾曲するなどの影響から吸い込み口までの糸先端の到達時間は短くならない。結果として、糸の操作性そのものは向上せず、糸の損傷へとつながっていく。圧力の高い流れでは管路から出た後の空気流が糸に影響を及ぼすのは、ポテンシャルコアが作用しているわずかな領域のみであり、大気開放された下流の糸は糸全体の抗力にほとんど寄与していない。従って、空気流が安定し急激な拡散や減速を起こさないこと、空気流量が多く下流の糸にまで十分に抗力を与え続けられることなどが糸操作の適切な条件としてあげられる。また、供給圧力としては空気圧縮性の影響が出る直前の状態が一番効率的であり、低い圧力で糸の推進力が不足する場合でも、強制的な送り出し装置などを使い糸に補助的な推進力を与えることで飛走挙動を改善することができる。
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