本年度は、昨年度に開発した微小ゼーベックプローブを用いた走査型二次元ゼーベック係数評価装置と自動測定プログラムの改良を行い、測定空間分解能と測定制度の向上を図った。ゼーベックプローブの形状を吟味することにより10μm程度の空間分解能を実現し、熱輻射シールドの採用などにより高精度で良好な再現性を持つ測定を可能にした。更に測定プログラムを改良し、最適測定条件を実現し、ゼーベック係数空間分布の可視化を可能にした。 この装置を用いて、傾斜凝固法により作製した亜鉛-アンチモン系及びビスマス-テルル系熱電材料におけるゼーベック係数の空間分布を室温において測定した。 その結果、亜鉛-アンチモン系材料では、ゼーベック係数に、100〜130μV/Kに亘る空間分布が存在することを明らかにした。この分布は、化学組成分析及び偏光光学顕微鏡観察により同定した結晶粒分布とほぼ同じであることから、この材料が示すゼーベック係数の空間分布は、それぞれの結晶粒が持つ結晶方位による違い、つまり異方性に由来することが明らかになった。 ビスマス-テルル系材料では、過剰テルルを添加したインゴット内において、結晶成長方向に沿ってゼーベック係数の極性が組成分析では検出できない極微小なテルル濃度の変化を反映してP型からN型へ反転することを始めて観測した。また、極性反転する近傍でP型、N型ともにゼーベック係数が増強されることを見い出した。 これらの結果は、ゼーベック係数が結晶方位、組成などに敏感であることを示しており、本研究で開発した装置が、熱電材料の研究だけではなく、他の材料の均質性を評価する方法としても有用であることを示唆する。
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