シリコン半導体デバイスの高集積化に伴い急峻にドープされた極浅接合の形成が必要である。国際半導体技術ロードマップ(ITRS)によれば2014年にはドーパント層の厚さはおよそ10nmになるとされている。従来では数MeV一数十keVのイオンエネルギーを用いたイオン注入法が用いられている。しかしこの方法ではシリコン結晶中に多量の原子空孔および格子間原子がなだれ現象的に形成されてしまい、ターゲットであるシリコン半導体の結晶性が著しく劣化する。結晶性の回復と導入したドーパントの活性化のためには熱処理が必要であるが、ドーパントの拡散が生じて極浅ドーピングプロファイルを保つことが困難となる。特にp型ドーパントであるボロンは原子半径が小さいためにシリコン結晶中を拡散しやすく、10nmの極浅ドーパント層の形成が困難である。本研究では、上記問題を解決するために1keV以下の超低エネルギーイオンを用いた超低エネルギーイオン注入技術を開発した。安定なボロンイオン電流照射を可能とするような原料材料の選定を行った。特殊材料ガスではないトリメチルボロンおよび3フソ化ボロンについて検討した。イオン源の動作条件およびイオン輸送系の条件の最適化を行った後に、イオン電流の安定性を検討した結果、3フッ化ボロンが適していることがわかった。イオン注入条件としてイオンエネルギー、ドーズ量、照射ターゲット温度を検討した。照射ターゲット温度800℃でイオン照射した場合、イオンエネルギーが300eVの時にシート抵抗が最小値3kΩ/□まで減少した。2次イオン質量分析法を用いて深さ方向のボロンの分布を解析した結果、イオンエネルギーが30eVのときの注入深さは1.2nm、イオンエネルギーが500eVのときの注入深さは8nmであり、超低エネルギーイオン注入により極浅ドープ層の形成が可能であることが明らかとなった。
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