平成20年度は、Er・Ti共ドープLiNbO_3膜で見られた540・560nm発光の特異的なEr濃度依存性が、他の希土類元素ドープLiNbO_3(LN)においても一般的に観測される現象なのかの確認とその発光増幅機構の解明を目的に研究を進めた。赤色発光中心用ドーパントとして重要なユーロピウム(Eu)と屈折率増加用ドーパントであるTiを共ドープさせたLN薄膜を作製し、フォトルミネッセンススペクトル(PL)、ラマンスペクトル、屈折率、光導波路の伝播損失などのEr濃度依存性を詳細に検討した。その結果、(1)Eu:Ti:LN薄膜においてもPL強度に特異的なEu濃度依存性が観測された。(2)EuはLN結晶のNbサイトに、またTiはLiサイトにあることが判明した。この結果は、引き上げ法などで作製されたEuドープLNでは、EuはLiサイトに存在するとされていた結果と正反対の結果である。(3)光伝播損失は、Eu濃度の増加に伴って増加する。伝播損失の主な原因は、膜中に存在するナノサイズの空孔(ナノボイド)によるRayleigh散乱であることを明らかにした。また、上記研究結果から、従来の希土類ドープLNに対して提案されていたdefectモデル[LiEuTiNb^*][NbV]O_3(Nb^*:LiサイトにあるNb、V:Nbvacancy)対して、[LiTi][NbEuV]03で表される新しいdefectモデルを提案した。このモデルを用いると、Tiの光吸収で生成した励起電子のEuへの電子移行が速く進むこと、再結合中心として働くNb vacancyの密度がTi濃度1.5mo1%の場合、Eu濃度0.43mo1%で最小値を取り、PL強度が最大となることが予想された。この予想は実験結果(0.50mo1%Eu:1.5mo1%TiでPL強度最大)と良い一致を示した。このモデルはLN光デバイスの開発に非常に重要と考えられる。
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