研究概要 |
DNA計算を行うためには,データもしくはアルゴリズム自体をDNA系列に変換する必要がある.ところで,実際にDNA計算を実行するためにはDNA系列の安定性,DNA系列の操作の容易性を保証するために,使用するDNA系列に制限を加えなければならない.DNA計算の過程ではこれらの制約を満たす系列しか使用できないので,そうした制限を満たす系列が漸近的にどれくらい存在するのかを知ることは,DNA計算のプロセス,DNA系列へのデータの符号化方法を設計する上で重要である.ところでこの漸近的な性質の研究は,情報理論において入力制約のある通信路の容量を調べることと,問題設定としては同等である.しかしながら,DNA計算で研究の対象となる制約は本質的に文脈自由文法で表現されるにもかかわらず,これまでの理論では,文脈自由文法の部分クラスである正規言語によって表現される制約のクラスの容量しか計算できなかった. 19年度の研究では,記号力学系の理論と解析的組み合わせ論の手法を用いて,文脈自由文法の部分クラスで,正規言語を含むかなり広いクラスの制約の容量を計算する方法を示した.この方法では,単一の制約のみならず,いくつかの制約を組み合わせた場合でも容量の計算が可能である.簡単な制約に対しては解析的に容量を求めることができる.いくつかの制約を組み合わせたような制約に対しては,数値的もしくは計算機シミュレーションによってその値を計算できる. 以上のようにDNA計算に関する制約の容量を系統的に計算できるようになったことにより,次のステップとして文脈自由文法によって表現できる制約を満たす系列を使って計算されるDNA計算のプロセスの解析が可能になることが期待される。
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