無線ホストの自律的ネットワーク構成により構築されるアドホックネットワークについては、これまで「つながる」ことを目的として研究が進められてきた。ユーザ間の情報共有空間としてアドホックネットワークを捉えた場合には、単につながるだけでなくユーザが伝えたい情報を効率よく転送する機能が求められる。このような観点から、本研究においては、アドホックネットワークを情報共有空間として提供する際の技術課題である、1.効率的情報伝達技術、2.効率的マルチキャスト実現技術、3.多くの通信を公平にかつ効率的にサポートするトラヒック制御技術について研究を行った。具体的には以下の研究成果を得た。(1)効率的情報転送を実現する技術として指向性アンテナを取り上げ、指向性アンテナホストと無指向性アンテナホストが混在する一般的な状況において、指向性アンテナを優先的に選択する方式を新しく提案した。指向性アンテナを決定論的に選択すると、かえってトラヒック集中から性能劣化が懸念されることから、確率的に優先選択する方法を提案し、本提案方式によりネットワークスループットを大きく改善できることを明らかにした。(2)アドホックネットワークにおいてマルチキャスト通信を行う際の一つの実現方法であるアプリケーションレベルマルチキャストの適用を考え、その際の重要な技術課題であるホストの不正行為の影響を評価した。その結果、不正によりそれほど性能改善が得られないことを明らかにし、不正行為を未然に防げることを示した。(3)アドホックネットワークにおける効率的トラヒック制御として、中継ホストでTCPセッションを分割するプロキシ型TCPを取り上げ、そのまま適用した場合にはかえって性能劣化がもたらされることを明らかにし、その改善手法を提案した。今回開発した実験システムにおける簡易通信実験により、さらにMAC層における影響が甚大であることも明らかにした。
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