本研究の目的は、光ファイバにそったひずみの分布測定における距離分解能を1mm程度まで高め、かつ、操作性に優れた測定装置の構成技術を確立することである。その実現のため、本研究では、ブリルアン増幅を応用した従来のひずみ分布測定技術であるBOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)において、新しいポンプパルス光の構成を発案した。新しいポンプパルス光は、ブリルアン増幅を効率的に生じさせるための第1のパルス光と、それに引き続き、高距離分解能を実現するための第2のパルス光からなる。今期、第2のパルス光の位相をπとすることにより、本研究で基本的かつ最も重要な課題である、ネガティブブリルアン増幅を実現した。そして、第2のパルス光の位相を0とすることにより得られるポジティブブリルアン増幅に基づく応答信号と、上記ネガティブブリルアン増幅に基づく応答信号との差信号を解析することにより、従来技術に比較し、10数dB大きな信号が得られることを、実験により証明した。この測定技術を、位相シフトBOTDA(PSP-BOTDA)と名付けた。PSP-BOTDAの理論的な研究も進め、第1のパルス光の時間幅、第2のパルス光の時間幅、これらの2つのパルス光の時問間隔、およびピークパワーと、ブリルアン増幅度の関係を明らかにし、PSP-BOTDAの設計法を確立した。使用したオシロスコープなどの帯域の制限から、実験で得た距離分解能は25cmであった。これは今期の達成目標である10cmには届かなかったが、実験データのSN比余裕は10dB以上あり、実質的には距離分解能10cmと同等以上の性能を達成したと考える。
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