本研究では、ビーム形状のミリ波パルスを使って、降雨時におけるパルス散乱特性を、従来の単一散乱理論ではなく、実体により即した散乱理論で散乱現象を解明し、豪雨の立体構造を推定することである。このため、多重散乱理論に基づき、降雨量と受信パルス波形の関係を求めることを目的としている。 前年度において、ミリ波の入射波が横方向に一様である平面波入射ではなく、新たに狭ビーム幅でかつ任意形状のパルス波形を仮定し、降雨散乱の定式化を行ったことを受けて、平成20年度では、実際に多重散乱がどのように影響を及ぼすかについて検討した。最初に、降雨からの受信強度が、散乱マトリックスを方位角方向にモードで展開することにより、空間的な入射ビーム幅に依存する形で求められ、その式から見いだされる定性的評価を行うため、ビームファクターを導入して議論を行い、次に具体的な数値計算を行った。 その結果、二次の散乱項に対する有限ビームサイズの影響は、平面波入射と異なり、ビーム径方向の入射強度の不均一さにより、散乱行列における方位角方向間において、モード間の結合を引き起こすことがわかった。そして、このモード結合の度合いは、ビーム幅と径方向の散乱自由行程に依存することが示された。実際、ビーム幅に相当する衛星レーダのフットプリントが平均自由行程より大きくなると、降雨からの散乱強度は、平面波入射の結果と同じになることが確かめられた。しかしながら、現実の衛星利用の場合でも、必ずしもフットプリントが大きくなるとは限らないため、本研究成果により、初めてフットプリントの多重散乱への依存性を示すことができた。
|