本研究の目的は、平常運転時のプラントの時間応答を用いて、数式モデルを作成することなく、多変数制御器の設計法を与えることにある。以下の点を明らかにした。 1)フィルタ前処理と反証効果 平常運転時に得られるプラントの時間応答データは、特定の試験信号を使わず、データ数が限られるなどの制約が多い。限られたデータから仮想的に多数の周波数帯域の応答データをバンドパスフィルタにより生成する方法を検討した。特に、バンドパスフィルタの処理を局所的な情報を取り出すのに有効であることが知られているウエーブレット変換と関連付けられることを示し、それに基づき適切なフィルタの選定をおこなった。すでに提案しているPIDゲイン平面に反証領域を描く方法にフィルタ処理された仮想的入出力信号を用いて良好な結果が得られることを確認した。 2)数値最適化による多入出力PID制御器の数値最適化 反証制御による混合感度問題を満たすPIDゲインの集合をパラメータ平面に表示する方法を発展させ、多変数PID制御器に対する数値最適化法を与えた。特に混合感度問題では重みの選定が容易でない面があるので、最大感度制約下で積分ゲインを最大化する問題に対して数値最適法を与えた。入出力応答から直接ゲインが満たすべき制約条件を求め、それは凹制約であるので、それを凸近似することで線形制約を求め、線形計画法で解を求める方法を示した。有効性を数値例で検討し、良好な結果が得られた。
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