本研究の目的は、国土数値情報空間データ基盤などの地物データを有効に利用し、水害避難の行動場をコンピュータ上に再現するとともに、申請者が従来開発を進めてきた水害避難ミクロモデルを街路状況やその上の浸水状況に応じて自律的に行動ができるように発展させることで、水害時の住民の心理過程と地形・地物に即した実際の行動をシミュレーションできるシステムを開発することである。 平成20年度には、前年の課題について検討を深めるとともに、特に、自律型避難行動エージェントモデルの設計を中心として検討を進めた。モデル開発の原型は、筆者らが従来開発進めてきた水害避難ミクロモデル(高棹ら(1995)、Hori et. al. (2004))である。水害避難ミクロモデルは、住民が浸水の状況や避難情報(準備勧告、勧告、指示)などの情報に反応する過程を、意識パラメータを用いて表現することで、避難開始を決意する、判断を留保するなど、意思決定過程の再現に重きを置いたものであった。そこで、本研究では、避難開始を決意した後、移動中に道路上の浸水状況に応じて引き返したり、経路を変更したりすることを、自律的に行える機能を実現した。具体的には、住民の意識や知識レベルに応じて、避難場所までの最短経路を選択する機能や、交差点で逐次避難場所の方角に最も近い経路を選択する機能など、移動行動にいくつかの現実的なオプションを用意し、これらを実現するソフトウエアシステムをコーディングした。なお、避難する住民間の相互作用の表現については、次年度に検討を引く継ぐことにしている。
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