研究概要 |
本研究は,海岸林の持つ津波減災能力の普遍的・一般的な解明を目指すものであるが,森林生態学を取り込んだ津波減衰モデルを確立するためには,まず代表的な個別の海岸林の繁茂状況・地形特性などについて把握することが重要と考え,鹿児島県志布志市「くにの松原」で繁茂密度・胸高直径・樹高・枝下率などの現地観測を行った.この観測は,海岸工学を専門とする浅野と森林生態学を専門とする寺岡が共同して行った.両者の協力により,単なる林分・樹木計測に終わることなく,津波の流体抵抗の観点から枝下率や下木の状況も押さえており,また津波の遡上に密接に関連する汀線付近の地形や砂丘形状も把握した.次いで,得られた結果を全国の海岸林の同種データと比較し,現地の個別的な偏りを分離し普遍的な特性を抽出することを試みた.しかし,それぞれの海岸林が林齢や環境状況が異なり,管理状況もさまざまなため,現時点では十分な成果が得られていない.一方,測定されたマツの幹・枝・葉の典型的な形状を模型で再現し,それを波動水槽内に設置して波を作用させた時の模型に作用する流体力を3分力計で測定した.波動の作用下では枝の可撓性が大きく,これが作用流体力に大きく影響していることが判明した.問題の所在は明確になったので次年度さらに精密な計測を行いたい.また,上述の現地観測や実験結果を基に,林分・樹木の諸元や汀線との相対位置,地形特性をモデル化して,海岸林による津波波高の減衰や氾濫域の減少が精度良く表現できる数値計算モデルの開発に努めた.これについては津波の非線形性・分散性を取り込んだ高精度の2次元氾濫シミュレーションが可能であり,林分・樹木の適切なモデル化についての考察を進めることで,海岸林の津波防災施設としての実用化に向けての基礎的知見が得られる手段になると考える.
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