研究概要 |
本研究では,マルチスケールにおける物質輸送を解明するために,東京湾スケールの現象と東京港スケールの異なる空間スケールの影響伝搬について検討を行った.まず,東京湾全体におけるDO・水温・塩分の空間分布調査成果を用いて,東京湾奥(湾央)から東京港へ至る影響伝搬について解析し,緩やかな循環に乗った影響伝搬を示唆する結果を得た.次に東京港,東扇島および千葉沖において計測された塩分・DO濃度の時系列を用いた統計解析を行い,それぞれの観測場所が数日間の位相を持って関係していることが分かった.それらの影響伝搬は,定常的に存在しているものではないが,急激な塩分やDO濃度の変化が生じた場合,それらの影響が伝搬しやすいことが示された.具体的には,2008年秋の東扇島,千葉灯標,東京港の底層DO値の観測結果の相互相関をとったところ,水質変化の影響が東扇島から千葉灯標へと1日で,千葉灯標から東京港へと1~2日で影響を与えている可能性が示された.また,2007年春の東扇島,千葉灯標の表層塩分の観測結果の相互相関をとったところ,東扇島の水質変化が3~4日で千葉灯標のDO濃度に影響を与えている可能性が示された.この情報は,アサリの浮遊幼生などの失われたネットワークを回復する際に重要な情報を与えるものである. データ解析により示された現象を説明するために,3次元数値計算モデルを用いたトレーサー実験を行った.トレーサー実験には,これまで東京湾に用いられてきており,その再現性の高さが証明されているELCOM&CAEDYMを用いた.その結果,計測器が設置されている水深付近のトレーサーの動きをみると,風の影響を大きく受けた影響の伝搬の様子が確認された.数値計算により,東扇島→千葉灯標→東京港→木更津という伝搬傾向があることが分かった.今後,これらの情報を利用して,京浜運河内における大スケールの影響評価と物質輸送に関する検討を進めてゆく計画である.
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