本研究では、運河網におけるマルチスケール効果を考慮した粒状物質の輸送過程の解明を目的とし、対象とする運河網は複雑な形状をしたエスチュアリーであると考え、もっとも都市化した領域を含んだ場所として東京湾奥部東京港および周辺の運河域を対象とし、網状に張り巡らされた水路における流れの把握、発生起源、エネルギーの伝達等について観測および3次元数値モデルを利用し検討した。マルチスケール効果を考慮した粒状物質の輸送過程に関して、多項目水質計を利用し、運河部における水質の空間分布・時間変化の測定を行うとともに、解析手法の提案を含め検討した。その結果、東扇島、千葉灯標、東京港の3地点において計測された塩分またはDO値の時系列解析により、東京湾と運河の水質が互いに影響を与えている可能性が示された。また、3次元数値モデルによる流動状況の可視化を行ったところ、千葉灯標における水質の変化が東京港および東扇島の水質に大きく影響を与えていることが予想される結果となった。その一方で、東京港奥に位置する芝浦運河および東雲運河内の貧酸素水塊は、東京西航路とは密接な関係があるが、内湾部の貧酸素水塊の直接的な影響を受けていないと考えられる観測結果が得られた。淡水供給の影響が強く、強い成層が形成される運河部の水環境を考えるに際しては、同じ成層構造を持った水域の範囲はどこであるかの視点が重要であることが示された。
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