著者らの提唱する古構造学は、現在では利用されなくなった構造を有する橋梁に着目し、構造の由来と消滅の理由の解明と記録を目的としたものである。現在、3つの事例を通じて、対象とする橋梁の構造の由来と消滅の理由を解明する手法を確立するための事例研究をおこなっている。古構造学が対象とする橋梁は、技術発展の途中で淘汰されたものであると認識され、設計者の発想や判断は否定的に評価されるか、ほとんど着目されることはない。これらの橋梁も網羅することが古構造学の目的であるが、そのためには従来の技術発展とは異なった視点の設定が必要となる。 平成20年度は、前年度からの継続で、1825年から1830年の間にマルク・スガンによってローヌ河上に建設された8橋の吊橋(スガンタイプ吊橋)を対象とする事例研究をおこなった。 まずトゥルノン橋をはじめとする現存4橋を対象に現地調査および資料調査を実施し、スガンタイプ吊橋の橋梁史における位置付け、さらに設計論への展開について考察をおこなった。その成果は、第28回土木史研究発表会にて発表した。上記と平行して、ドゥ・ラ・ノエによる鉄道高架橋群についての現地調査および資料収集をおこなった。前年度は鉄道高架橋群の実現の背景を、主として設計者の経歴・実績に着目しつつ分析した。本年度は、現地調査によって得られた地域開発という視点から、高架橋群の構造の由来を明らかにする。その成果は、第29回土木史研究発表会で公表する予定である。また今年度は、これまでの事例研究から得られた知見をもとに、古構造学の手法をとりまとめる予定である。
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