研究概要 |
湿式メタン発酵と乾式メタン発酵の発酵特性の差異について調べるため,含水率99%の湿式試験区と含水率83%の乾式試験区を用意し,回分実験によってメタンガス発生速度および励起蛍光マトリックスの経時変化を取得した。ガス発生速度においては,両試験区における平均発生速度に大きな差異はみられなかったが,湿式試験区の方が全体に速度が大きい傾向がみられた。また,試験区内における蛍光物質特性を示す励起蛍光マトリックスにおいては,両試験区で明確な差異がみられた。乾式試験区は,湿式試験区に比べて明らかに浮遊性物質由来の蛍光強度が大きく,湿式試験区の固相のみを抽出した際の励起蛍光マトリックスと蛍光分布が類似していた。一方で,水溶性タンパク質由来の蛍光強度は小さかった。また,両試験区における複数の蛍光ピークがそれぞれ異なる経時変化を表しており,内部での代謝反応の差異を反映していると考えられた。これらの結果から,励起蛍光マトリックスによる分析が,湿式および乾式の発酵槽内部における有機物分解の挙動を解析する上で,迅速かつ有用な手段である可能性を示唆することができた。 なお,湿式試験区における個々のデータの標準偏差に比べて,乾式試験区における結果の標準偏差はきわめて大きく,回分実験のための種汚泥を採取した発酵槽内での不均一性が高いことが示唆された。一連の実験から,本実験に関する湿式および乾式条件下での反応速度パラメータを決定し,既存のメタン発酵モデルADM1に導入した。その結果,湿式試験区に関するシミュレーション結果は良好であったが,乾式試験区に関するシミュレーションは,実際の結果と異なっており,内部の不均一性等を考慮するパラメータが必要であることが裏付けられた。
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