本研究は、都市の気候・熱環境と空調エネルギー需要の連成予測モデルを改良・適用し、アジア低緯度都市域での気候・熱環境変化に連関する省エネポテンシャルの定量化を目指したものである。インド国デリーを対象に平成21年度は以下の研究を行った。 (1)気象・熱環境の現地観測 現地治安情勢の悪化を受け、2009年に実施を見送った冬季観測に代わり、2010年3月、デリー市内外の30定点で2008年5月の夏季観測と同様に地上気象要素を計測した。加えて移動観測により60地点で気温を新たに測定し、TERRA/ASTERによる地表面温度の衛星計測データも取得した。連続5日間の好天静穏日に取得された以上の観測データの予備解析の結果、ストームの影響を受けた2008年5月の観測に比し、都心でより明瞭な気温上昇が検出され、その詳細な解析を進めている。 (2)連成モデルのデリーへの適用と検証 モデルへデリーの街区構造などに関わる計算条件を同定・入力し、数値実験を行った。前線通過に伴う気温降下からの回復過程にあった2008年5月観測時の地上気温をモデルは系統的に過大評価した。補完的に実施した東京の数値実験では、実測に見られる都心気温の人工排熱への応答感度が再現されたものの、デリーを対象としたモデル検証には至らず、2010年3月の観測データを用いた検証を課題として残した。 (3)各種シナリオによる熱環境影響と冷房消費エネルギー量変化についての解析 デリーの都市熱環境改善策のシナリオ想定のため必要となる現況技術水準と緑化施策等の対策取組みの現状とに関わる基礎データを整備し、シナリオ案を作成した。(2)のモデル検証の成果を踏まえ、シナリオ解析を今後実施する。 (4)連成解析に基づくデリーの省エネポテンシャルの定量化 以上の課題に取組み、各種環境対策がデリーの蒸暑環境の改善を通じて冷房エネルギーにもたらす省エネ効果を今後定量化する。
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