研究概要 |
本研究の目的は、これまで実施が困難であった溶接接合部の高速繰返し曲け試験を行い、超高速引張試験において脆性破断と変形能力の急減が見られた低靭性溶接接合部の変形能力を、実大の柱梁溶接部の実験で定量的に明らかにすることである。これにより、動的外力を対象とした溶接構造物の安全性評価のための基礎資料が得られる。 本年度は昨年度に引き続き、実大柱梁試験体を2体作成し、高速繰返し試験に供した。昨年度の実験では高速での実験が途中でトラブルにより停止したため、定量的な比較が難しいデータしかえられなかった。そこで、本年度も載荷パターンは全ての変位で最大速度となる三角波を採用した漸増変位振幅繰返し載荷とし、速度を10mm/secと1,200mm/secの2種類とした。ただし、柱と梁の鋼種をSM490とし、鋼種の違いの影響が把握できる様計画した。また、昨年度の実験では、変位が予定より若干大きめにでてしまったが、本年度はあらかじめ考慮することによりほぼ所定の変位で実験を行うことが出来た。さらに、荷重に関しても衝撃波の影響を受けない計測法を考案した。その結果、スカラップ底からの脆性破壊を低速でも高速でも再現することができ、高速の実験では実大試験体をわずか1秒強で破壊させること-が出来た。昨年度より精度の良い荷重変形関係が得られ、SM490の場合でも破断時の荷重振幅はほぼ同じであり、吸収エネルギーは速度の影響による大きな差異は無いこと、最大荷重は高速の方が大きくなることが明らかとなった。また、柱梁溶接部をモデル化したリブ十字溶接試験体の超高速引張り試験も行った。 このように、実大試験体を用いた高速繰返し曲げ試験のノウハウが蓄積でき、試験体数は少ないものの脆性破壊を生じる柱梁接合部の変形性能に及ぼす載荷速度の影響を検討するための基礎的資料が得られた。
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