研究概要 |
近い将来に発生が予想される東海・東南海地震などの海溝型巨大地震では,継続時間が長く,かつ長周期成分を多く含む地震動が発生する可能性が指摘されており,建物がそのような地震動を受けた場合には,既存の制震ダンパーのエネルギー吸収容量が不足し,十分な制震効果が得られない恐れがある。これを解決するため,本研究では,小型・軽量で大きなエネルギーを吸収できる制震ダンパーの開発を試みた。具体的には,建物の振動エネルギーを無害な回転エネルギーに変換・蓄積し,その回転エネルギーを時間差をおいて放出し,地震の揺れを止めるために再利用するというシステムを取り入れた『力学エネルギー遅延機構による制震ダンパー』(以下,遅延ダンパー)を提案し,その基本原理を実験的に確認することを目標とした。今年度は,建物変位振幅の抑制効果を高める回転増幅機構を遅延ダンパーに組み込んだ場合の制震効果を模型実験によって確認するとともに,地震応答解析に用いる遅延ダンパーの力学モデルを構築した。今年度の主要な知見は,以下の通りである。(1)回転増幅機構を組み込むことで,遅延ダンパーの建物変位抑制効果が高められることを模型実験により確認した。詳細には,回転増幅機構のギア間の速度伝達比を小さくして遅延ダンパー内部の慣性円盤の等価付加質量比を大きくするほど減衰効果は増大すること,遅延ダンパーを組み込んだ建物の等価減衰定数は等価付加質量比に比例して増加することなどを明らかにした。(2)Euler-Lagrange法と角運動量保存則,衝突前後の速度変化を表す反発係数を用いて,力学エネルギー遅延機構の力学モデルを構築した上で,模型実験を再現する数値シミュレーションを実施した。その結果,実験において建物に見立てた重錘振り子の変位応答が再現できることを確認し,数値モデルの妥当性を検証できた。
|