本研究は、環境・経済・社会を統合的にとらえて持続可能な発展を目指す試みとして、2000年以降の都市関連EU施策をミクロとマクロの両面から分析する2年にわたる研究で、最終年度は、マクロの空間政策に関するヒアリングなどの調査を実施し、昨年度のミクロの都市政策に関する調査分析結果と総合して、両者を連携した多様な主体によるガバナンスとはどのようなものかについて考察した。まず、マクロの空間政策について、(1)EU地域政策総局の空間政策担当のR・ニースラー氏および都市担当、(2)ESPON事務局長のP・メールビー氏にヒアリングした。その結果、2000年以降、EUレベルのプライオリティが経済開発と環境問題に置かれ、地域間不均衡是正のためのEUの役割が薄らぐ中で、territorial cohesionをめぐる論争が起こっていることがわかった。また、欧州空間戦略として多心型の強みを生かして持続可能性を高めようとする方向性に変わりないが、(1)現行の国土・都市計画制度の枠組みでは有効な実践に結びついていない、(2)都市開発ブームに沸く中東欧都市と西南欧都市では持続可能性の理解に温度差があるなど、課題があることがわかった。加えて、CO2削減の取組がサステイナブルシティ政策をどう展開させているかを知るために、気候変動「適応」をカギにオーストリアおよび気候同盟の動きをヒアリングした。また、マクロとミクロの連携による多様なガバナンスの実態を把握するために、国境を越えたウィーン-ブラチスラバ地域にフォーカスして、自治体のみならず市民団体や、実際に越境地域連携の空間政策に携わる空間計画コンサルにもヒアリングした。2年間の調査結果を総合的に考察したところ、欧州全体としてみたマクロに環境・経済・社会を統合した持続可能な発展の方向と符合するミクロレベルの動きが見られる一方、経済開発を急ぐ中東欧都市をはじめとしてミクロとマクロの持続可能性が合致せず、課題も明らかになった。
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