建築や都市空間を対象にした研究においては、物理的な空間の構成要素の現状調査を行い、物理的な空間の現状の特徴についての分析を行なう側面がある。このようなハード面と、健常者や障害者を対象とした調査分析を行なうソフト面がある。その両面について幅広く把握するために研究を進めてきたが、今回はソフト面を中心にまとめた。これからの社会を担っていく若者が弱者に対してどのような意識を持っているかを明らかにするために福祉に関する意識、行動、知識、障害者擬似体験による意識の変化について検討を行なった。その結果、高齢者・障害者等の福祉問題、社会保障環境を深刻だと捉えているが、リクリエーション環境に関してはあまり深刻に捉えていないこと、高齢者や障害者等に配慮した行動は、特別な行動として捉えているようで、積極的に行動しているとは考えにくいことなどが明らかになった。また、障害者の生活をより正しく理解するために小学校、中学校、高等学校、短期大学、大学などにおいても障害者擬似体験学習がおこなわれている。障害者のうち車椅子生活者の体験学習による意識の変化について検討した。その結果、生活は大変と思うか、かわいそうと思うか、わがままと思うかなどについては主観的な思いからより客観的な思考に変化する傾向があること、生活者が困っているところに遭遇したとき手助けができると思うなどの積極的な意識は高くなること、身近な空間に対する見かたの意識は有意に向上すること、体験学習をしてよかったとの意識の向上が顕著であること、体験学習が将来何らかの役に立つと思っていること、体験学習は今後も継続したほうが望ましいとの意識であることなどが明らかになった。これらのことはこれまでに客観的に明らかにされていなかったことであり、その意義は大きいと考えている。また、ハード面についても順次発表の予定である。
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