研究課題
建築や都市空間を対象にした研究においては、物理的な空間の構成要素の現状調査を行い、物理的な空間の現状の特徴についての分析を行なう側面がある。このようなハード面と、健常者をはじめ障害者を対象とした調査分析を行なうソフト面がある。その両面について幅広く検討するために研究を進めてきたが、今回は弱者に関するソフト面を中心にまとめた。パソコン上で作動する音声情報のない避難シミュレータを用いて避難体験をおこなった。音声情報がないことは視覚情報のみで避難をおこなわなければならない。これは聴覚障害者が視覚情報のみで避難することに類似していることから、聴覚障害者の擬似体験として位置付けられる。擬似体験後は避難行動の軌跡の類型化をはかると共にまた、擬似体験直後に実施した視覚情報による写真判別法を用いて空間把握の特徴について分析した。避難行動は個人差が大きくその軌跡も多種多様であるのではないかと予想されたが、避難成功者は61%、行動軌跡は13種類、避難失敗者は39%、行動軌跡は16種類に分類することができた。また、両者の避難行動軌跡は、それぞれ主に5種類であることが明らかになった。さらに、写真判別法による空間把握においては、地点の把握率は60%程度、順序の把握率は36%程度であり、地点や順序の把握率は成功者と失敗者間には統計的な有意差は認められないが、失敗者よりも成功者の正答率は高くなることを明らかにした。これらのことはこれまでに客観的に明らかにされていなかったことであり、その意義は大きいと考えている。また、建築空間のハード面と人間側のソフト面の関係についても順次発表の予定である。
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日本建築学会計画系論文集 Vol. 73, No. 634
ページ: 2613-2621