初年度は、従来型特養へのユニットケア導入のハード整備に関する全体像を明確にするため、(1)高齢者福祉・住環境に関する社会制度・政策や既往研究の計画知見・課題を整理して本研究の社会的意義を深め、(2)ユニットケア実践報告書から抽出した従来型特養126施設におけるユニットケア条件の導入プロセスを福祉業界が推奨する導入モデルと比較・検討し、(3)最終的に建築工事が行われた84施設(改修45例、増築言9例)を対象に実践報告書で判読できない事柄やユニットの整備状況を補足する郵送アンケート調査を行い、段階的な住環境改善に関するタイプ分類を試み、導入に伴うハード整備、導入の成果と課題などを考察した結果、次のことが判明した。 1.各事例の導入プロセスと福祉業界が推奨する導入モデルを比較すると、ユニットケア条件によっては導入モデル通りに進んでおらず、ユニットケア導入が個別ケア実践のためという背景や資金的な問題もあり、ケアの理解や意識形成がハード整備より優先される実状を明らかにした。 2.居住環境整備は、入居者には居室以外に一人で過ごせる居場所やプライバシーの確保、自立に結びつきやすい水回り、スタッフにはケア動線短縮などが要点といえ、ユニットケアの導入に伴うハード整備では事例の約7割で個別ケアにも対応しやすくなったという回答が得られた。 3.改修・増築事例におけるユニットの配置状況や生活空間の分割方法を検討することにより、各階フロアにおける物理的環境とユニットの配置方法との関係を明らかにし、生活空間の小規模化の実状と改修事例の半数で複数ユニットによる共用スペース共有という課題が指摘できた。 以上のように、実践報告書の記述に基づく分析結果をアンケート調査によって補完した従来型特養へのユニットケア導入の実状を踏まえ、次年度は、入居者の介護レベルに適合する生活環境条件について究明していくこととする。
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